私は、NISAしかやっていません。
小規模企業共済もiDeCoも入っていません。理由を聞かれたら、こう答えていました。
「NISAで十分だと思っている」
この記事を書くために3つを並べて調べました。結論から言うと、「NISAで十分」は正確ではありませんでした。
そして、もうひとつ分かったことがあります。会社役員は、iDeCoに出せる金額が個人事業主の3分の1しかありません。 これは「小規模企業共済とiDeCo、どっち?」という記事のほとんどが書いていないことでした。
まず、3つは同じ「積立」ではありません
私が見落としていたのは、税金が引かれる前のお金で積むか、引かれた後のお金で積むかという違いでした。
| 掛金を出すとき | 運用しているとき | 受け取るとき | |
|---|---|---|---|
| NISA | 控除なし(税引後のお金で買う) | 非課税 | 非課税 |
| 小規模企業共済 | 全額が所得控除 | — | 課税される(退職所得・雑所得) |
| iDeCo | 全額が所得控除 | 非課税 | 課税される(退職所得・雑所得) |
小規模企業共済とiDeCoの掛金は、「小規模企業共済等掛金控除」として全額が所得から引けます(中小機構)。つまり、その年に払う税金が減ります。
NISAにこれはありません。給料や役員報酬から税金を引かれた後の、手元に残ったお金で買っています。
私は運用益が非課税という点だけを見て「NISAで十分」と思っていました。入口の控除を、まったく計算に入れていませんでした。
⚠️ ただし、控除は「非課税」ではありません
ここは公平に書きます。共済とiDeCoの控除は、税金が消えるわけではありません。
受け取るときに課税されます。 一括で受け取れば退職所得、分割なら公的年金等の雑所得です。退職所得の扱いは有利ですが、ゼロではない。
払う時期を後ろにずらしているだけ、という見方もできます。逆にNISAは受け取るときも非課税です。
だから「共済とiDeCoが有利、NISAは不利」という話ではありません。 効き方が違うだけです。
⚠️ 会社役員は、iDeCoの枠が個人事業主の3分の1です
ここが今回いちばん驚いたところです。
iDeCoに出せる上限は、立場によって違います。 個人事業主は国民年金の第1号被保険者、会社役員は厚生年金の第2号被保険者だからです。
現行(2026年11月まで)
| 小規模企業共済 | iDeCo | 合計(月) | |
|---|---|---|---|
| 個人事業主 | 70,000円 | 68,000円 | 138,000円 |
| 会社役員(企業年金なし) | 70,000円 | 23,000円 | 93,000円 |
月45,000円、年間54万円の差です。同じ「経営者」でも、出せる枠がこれだけ違います。
(個人事業主の68,000円は、国民年金基金や付加保険料と合算しての上限です)
「小規模企業共済とiDeCo、どっちを優先すべきか」という記事は、ほぼ全部が個人事業主を前提に書かれています。 「両方の枠を full に使えば月13万円以上が控除できます」といった説明を、役員がそのまま読むと合いません。
中小機構自身の解説ページでさえ、役員と個人事業主を区別していませんでした。 併用できます、という説明で終わっています。
私は会社役員なので、後者です。 小規模企業共済では受け取れる区分が個人事業主と違うと前に書きましたが、iDeCoでは金額そのものが違いました。
2026年12月に、その差がほぼ消えます
調べていて、いちばん実用的だったのがこれです。
2026年12月1日から、iDeCoの拠出限度額が引き上げられます(厚生労働省)。
| iDeCo(現行) | iDeCo(改正後) | |
|---|---|---|
| 第1号(個人事業主など) | 68,000円 | 75,000円 |
| 第2号(会社役員・会社員など) | 23,000円 | 62,000円 |
| 第3号 | 23,000円 | 23,000円(変更なし) |
役員の枠は、月23,000円から62,000円になります。 共済と合わせるとこうなります。
| 現行の合計 | 改正後の合計 | 増える額 | |
|---|---|---|---|
| 個人事業主 | 138,000円 | 145,000円 | +7,000円 |
| 会社役員 | 93,000円 | 132,000円 | +39,000円 |
厚労省は、第2号について「勤務先の企業年金の有無等による差異を解消し、企業年金と共通の拠出限度額に一本化したうえで」引き上げると書いています。これまで企業年金があるかどうかで枠が変わっていたのが、揃います。
あわせて加入できる年齢も70歳未満まで引き上げられます。
つまり、役員にとってiDeCoを検討する価値は、この12月に上がります。 今の23,000円という枠を見て「大した額にならない」と判断していたなら、前提が変わります。
私が本当に引っかかっていたのは、税金ではありませんでした
ここまで書いて、自分がなぜやっていないのかが分かりました。控除を知らなかったから、ではありません。
引き出せるかどうかでした。
| 途中で引き出せるか | 貸付制度 | 手数料 | |
|---|---|---|---|
| NISA | いつでも売れる | — | 商品による |
| 小規模企業共済 | 任意解約できるが、240か月未満は元本割れ | あり | かからない |
| iDeCo | 原則60歳まで不可 | なし | かかる |
小規模企業共済は、掛金納付月数が240か月(20年)未満で任意解約すると、解約手当金が掛金の合計を下回ります(中小機構)。12か月未満だと掛け捨てです。
iDeCoは、そもそも引き出せません。 原則60歳までです。貸付もありません。
私は「借りられるうちに借りる」と書いた人間です。 資金繰りの自由を、かなり重く見ています。その考え方と、60歳までのロックは正面からぶつかります。
そして**本業ですでに大きなリスクを取っているとも書きました。会社に何かあったとき、手を付けられないお金があることの意味は、たしかにあります。ただ手を付けられないこと自体が怖い**、というのが正直なところでした。
その点で、小規模企業共済には貸付制度があります。 積んだお金を担保に事業資金を借りられる。iDeCoにはこれがありません。 経営者にとって、この差は小さくないと思います。
そして、出口のルールは実際に後から変わりました
ここが、私にとっていちばん大きい点です。
2026年1月1日から、iDeCoの一時金にかかる税金のルールが変わりました。
iDeCoの一時金を先に受け取り、そのあとに会社の退職金を受け取る場合、退職所得控除の重複を調整する期間が決まっています。これが**「前年以前4年内」から「前年以前9年内」に広がりました**(財務省・令和7年度税制改正の大綱、国税庁)。
いわゆる「5年ルール」が「10年ルール」になったと言われているものです。
意味するところは単純です。以前は5年空ければ控除をフルに使えたのが、10年空けないと調整されるようになった。 受け取り方の設計が、後から変わったということです。
これは仮定の話ではありません。今年すでに起きたことです。
そして重要なのは、この改正が、すでに何年も積んできた人にも及ぶという点です。受け取る時点の法律が適用されるからです。
⚠️ 逃げ道があるかどうかが、決定的に違います
ここで、NISAとの差がはっきりします。
| 制度が不利に変わったとき | |
|---|---|
| NISA | 売って現金化できる。 制度から降りられる |
| 小規模企業共済 | 任意解約できる(240か月未満は元本割れ)。貸付も使える |
| iDeCo | 60歳まで出せない。 ルールが変わっても、待つしかない |
iDeCoは、制度リスクから自分で降りられません。
20年積んで、いよいよ受け取るという段階でルールが変わっても、引き出して避けるという選択肢がない。 これが「60歳まで引き出せない」ことの、本当の意味だと思います。
私が引っかかっていたのは、たぶんここでした。 お金が使えないことではなく、条件を変えられても動けないことのほうです。
⚠️ ただし、公平に見るとこうも言えます
私に都合のいい話だけ書くのはフェアではないので、反対側も書きます。
① 掛金の拠出は止められます。 運用指図者という立場に変われば、それ以上積むのをやめられます。既に積んだ分は60歳まで出せませんが、ロックを増やさないことはできます。
② 改正は不利なものばかりではありません。 この記事の前半で書いた2026年12月の拠出限度額の引き上げは、明らかに有利な改正です。制度が変わる=悪くなる、ではありません。
③ 今回の改正は、iDeCoの狙い撃ちではありません。 退職金課税全体の見直しで、会社の退職金も同じ影響を受けます。 iDeCoだけが不利になったわけではない。
④ 入口の控除は、毎年確実に効きます。 出口の不確実さと、確実な控除を天秤にかける話であって、出口が不確実だから損、と決まったわけではありません。
それでも私は、降りられないほうを選びません
これは損得の計算ではなく、性格と立場の話だと思っています。
私は**「借りられるうちに借りる」と書き、本業ですでに大きなリスクを取っている**とも書きました。共通しているのは、選択肢を残しておくことに価値を置いているということです。
会社を持っている以上、自分でコントロールできないリスクは、もう十分に抱えています。 そのうえで、制度が変わっても動けない場所に、さらにお金を固定したくない。
だから私はiDeCoをやりません。 節税額を計算した結果ではありません。
⚠️ ただし、これは人に勧める理由ではありません。 会社員で退職金の設計が読める方や、資金繰りに余裕がある方なら、答えは変わって当然だと思います。私の立場ではこう考えた、というだけです。
iDeCoは、どこで申し込むかで条件が変わります
これは共済にはない話です。小規模企業共済は中小機構の1本ですが、iDeCoは金融機関を自分で選びます。
誰が申し込んでも必ずかかる手数料があります。
| 額 | 払う先 | |
|---|---|---|
| 加入時(初回のみ) | 2,829円 | 国民年金基金連合会 |
| 加入中(毎月) | 105円 | 国民年金基金連合会 |
| 加入中(毎月) | 66円 | 事務委託先金融機関 |
⚠️ この105円が、2027年1月の掛金から120円に上がります。 国民年金基金連合会が「物価・人件費の上昇に伴い」として改定を告知しています。加入時の2,829円は変わりません。
拠出限度額が上がるのが2026年12月、手数料が上がるのが2027年1月です。 続けて変わります。
そのうえで、**金融機関ごとに違うのが「運営管理機関手数料」と「商品ラインナップ」**です。iDeCo公式サイトも、金融機関によって管理手数料も運用商品も異なると書いています。
運営管理機関手数料が無料の金融機関もあります。 毎月かかるものなので、20年30年で見ると差が出ます。
小規模企業共済に手数料はありません。 この点は共済のほうが単純です。
私はiDeCoをやっていないので、どこがいいという実感はありません。 ただ、始めると決めたなら、ここは最初に比べるべきところだと思います。掛金の額は後から変えられますが、金融機関を変えるのは手間がかかります。
役員は、受け取り方の条件も違います
これは前に書いたことなので短く触れます。
小規模企業共済は、辞めた理由によって受け取れる区分が変わります。 そして会社役員と個人事業主で、その条件が違います。 別の記事に整理してあります。
もうひとつ、加入資格で見落としやすい点があります。中小企業退職金共済(中退共)の被共済者は、小規模企業共済に加入できません(中小機構)。役員登記されていない実質的な経営者や、使用人兼務役員も対象外です。
うちは製造業で、常時使用する従業員が20人以下なので、加入資格はあります。 対象になるのに入っていない、というのが今の状態です。
順番をつけるとしたら
「どっちが先か」を一般論で決めるのは無理でした。判断する材料は3つだと思います。
| 見るところ | なぜ |
|---|---|
| ① 課税所得が出ているか | 出ていなければ、控除は効かない。経営セーフティ共済で書いたのと同じ話です |
| ② そのお金を60歳まで触らないと言い切れるか | 言い切れないなら、iDeCoは重い |
| ③ 20年続けられるか | 共済は240か月未満の任意解約で元本割れします |
そのうえで、私の場合はこう整理しました。
「NISAで十分」は正確ではありませんでした。 入口の控除がある時点で、共済とiDeCoは別物です。
ただし順番をつけるなら、今は小規模企業共済が先だと思っています。貸付制度があり、役員を退任したときに受け取れるからです。資金繰りの逃げ道を残したまま控除が取れる、という点で、私の考え方と矛盾しません。
iDeCoは、やりません。 上に書いたとおり、制度が不利に変わったときに降りられないからです。
ただし枠が23,000円のままなら検討する必要すらなかったのが、62,000円になると話が変わる人はいると思います。私と違って資金繰りに余裕がある会社の役員なら、なおさらです。
そして、まだどちらも入っていません。 この記事は「入った話」ではなく、入っていない人間が調べて、順番だけ決めた記録です。実際に入ったら、そのときにまた書きます。
まとめ
- 3つは同じ積立ではない。 NISAは入口の控除がなく、共済とiDeCoは全額所得控除
- ただし控除は非課税ではない。 受け取るときに課税される。NISAは受け取るときも非課税
- 会社役員はiDeCoの枠が月23,000円。個人事業主の68,000円の3分の1。比較記事はほぼ個人事業主前提なので、そのまま読むと合わない
- 2026年12月1日から、第2号は62,000円に。 役員にとっては検討価値が上がる
- 決め手は税金ではなく、制度が変わったときに降りられるかどうか。 NISAは売れる、共済は解約も貸付もできる、iDeCoは60歳まで動けない
- 出口のルールは実際に後から変わった。 2026年1月から、いわゆる5年ルールが10年ルールに
- iDeCoは金融機関で手数料と商品が変わる。 共済にはこの選択がない。なお共通の手数料は2027年1月に上がる
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この記事について
本記事は執筆時点(2026年8月)の制度内容と、筆者自身が調べた記録にもとづいて書いています。筆者は小規模企業共済・iDeCoのいずれにも加入していません。 本記事は特定の金融商品や運用方法を勧めるものではなく、投資助言でもありません。
iDeCoは運用商品によって元本割れすることがあります。 また拠出限度額・加入資格・税制上の取り扱いは改正されることがあり、2026年12月1日施行予定の内容は、今後変更される可能性があります。 加入や金額の判断にあたっては、必ずiDeCo公式サイト・中小機構・厚生労働省の最新情報をご確認のうえ、必要に応じて税理士等の専門家にご相談ください。