経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)に、うちは入っていません。

「掛金が全額損金になるから節税になる」と何度も勧められました。制度としては筋の通った良いものだと思っています。それでも今は入らない、という結論になりました。

理由は単純で、うちの場合は今のところ節税の効果がほとんど出ないからです。この記事は、その判断に至るまでに考えたことの記録です。

「全額損金だから得」という説明だけで判断すると、たぶん間違えます。

制度そのものは、よくできている

まず前提として、制度の中身は悪くありません。

  • 掛金は月5,000円から20万円まで自由に決められ、増額・減額もできる
  • 掛金は損金(法人)または必要経費(個人事業主)に算入できる
  • 40か月以上納めれば、解約手当金として掛金が全額戻る(12か月以上で8割以上、12か月未満は掛け捨て)
  • 取引先が倒産したとき、**掛金総額の10倍(最高8,000万円)**と回収困難になった売掛金債権等の額のいずれか少ない額の範囲で借入れができる

**本来の目的は「取引先が倒産したときの資金調達」**です。節税は付随的な効果にすぎません。ここを取り違えると判断を誤ります。

⚠️ 調べ直して、書き足したことが3つあります

公開したあとで中小機構の資料を読み直したら、知らなかったことが3つ出てきました。

① 無利子ですが、借りると掛金が減ります

「無担保・無保証・無利子」が売りの制度ですが、借入の条件にこう書かれています。

共済金の借入れ額の算定基礎となる掛金総額は、(中略)すでに共済金の借入れを受けている場合はその共済金の借入れ額の10分の1に相当する額を差し引いた額となります

⚠️ 借入額の10分の1が、掛金総額から消えます。 800万円積んで8,000万円借りたら、800万円が消えるということです。利息はゼロでも、10%を掛金で払っているのと変わりません。

「無利子だから使わない手はない」ではありませんでした。 本当に取引先が倒産して、他に資金の当てがないときに使うものだと思います。

② 解約手当金の率は、解約の種類でも変わります

40か月で全額、というのは知っていましたが、解約の種類が3つあり、率が違いました。

納付月数 任意解約 みなし解約 機構解約
1〜11か月 0% 0% 0%
12〜23か月 80% 85% 75%
24〜29か月 85% 90% 80%
30〜35か月 90% 95% 85%
36〜39か月 95% 100% 90%
40か月〜 100% 100% 95%
  • 任意解約: 自分から解約する
  • みなし解約: 死亡、解散、会社分割、事業の全部譲渡があったとき
  • ⚠️ 機構解約: 12か月分以上の掛金を滞納したときなど、中小機構が行う解約

⚠️ 滞納すると、こちらの意思と関係なく解約されます。 そして支給率が一番低いのが機構解約です。40か月以上納めていても95%にしかなりません。

③ 積める総額は800万円までです

掛金は月5,000円〜20万円(5,000円単位)で、総額800万円まで。年240万円が上限です。

⚠️ 減額には一定の理由が必要とされています。中退共で書いた「やめられない」構造ほどではありませんが、始めたら自由に下げられるわけではありません。

なお前納もできて、支払った日の属する事業年度の損金に算入できます。 ⚠️ ただし前納の期間が1年を超えるものは、期間の経過に応じての損金算入になります。

「全額損金」は「税金が減る」ではない

ここが一番大事な点です。

損金に算入できるというのは、「課税される所得を減らせる」という意味です。所得が減るから、そこにかかる税金が減る。それだけです。

ということは、もともと課税される所得が出ていなければ、減らすものがありません。

掛金を払っても税金は1円も減りません。ただ現金が出ていくだけです。

うちの場合:課税所得がほとんど出ていない

うちは今、課税所得がほとんど出ていない状態です。過去の分の繰越があるためです。

法人税には欠損金の繰越控除という仕組みがあります。青色申告をしていれば、ある事業年度に生じた欠損金を10年間繰り越して、その後の所得から差し引けます(平成30年4月1日前に開始した事業年度に生じたものは9年)。

そして中小法人等の場合、控除の限度額に制限がありません。 その事業年度の所得金額を限度に、全額を控除できます。

つまり、繰り越しがある間は課税所得をゼロにできるということです。

この状態で掛金を払っても、節税効果はゼロです。 「全額損金」という売り文句が、うちには効きません。

そして解約手当金は「収入」になる

もう一つ、見落としやすい点があります。

解約手当金は、受け取った年の収入(益金)になります。 掛金を払ったときに損金にして、受け取ったときに益金にする。差し引きすると、税金が消えたわけではなく、払うタイミングが後ろにずれただけです。

つまりこの制度は、**節税ではなく「課税の先送り」**です。

ここを踏まえると、うちの状況はこうなります。

  • :払っても税金は減らない(課税所得がないので)
  • 将来:解約したときに収入として課税される

メリットを受けられない時期に払って、税金だけ将来に発生する。 順序が逆です。だから今は入らない、という結論になりました。

逆に言えば、黒字が定着して税金を払う状態になってからが、本来の出番だと考えています。

2024年10月の改正で、出口の設計が重要になった

もう一つ、知らない人が多いと思われる改正があります。

令和6年(2024年)10月1日以後に共済契約を解除した場合、解除の日から2年を経過する日までの間に支払う掛金は、損金または必要経費に算入できません。

以前は「積立限度に達したら解約して、また入り直す」という調整ができました。それが封じられました。 国としては、制度の本来の目的から外れた使い方を抑える改正です。

これが意味するのは、入る前に出口まで考えておく必要があるということです。

  • いつ解約するのか
  • 解約した年に、その収入を吸収できる損失や支出があるか
  • 再加入を前提にした運用は、もうできない

「とりあえず入っておく」が通用しにくくなりました。 私が慎重になっている理由の一つでもあります。

それでも入るべき場合がある

ここまで否定的に書いてきましたが、入るべき状況もはっきりしています。

節税ではなく、本来の目的が必要な場合です。

  • 売掛金の回収不能リスクが現実的にある(取引先が少数に偏っている、与信の把握が難しい)
  • 取引先が倒産したときに、すぐ動かせる資金の当てがない

この目的で入るなら、課税所得が出ているかどうかは関係ありません。 保険として持つ話なので、節税効果がゼロでも意味があります。

税金の話と、備えの話は別です。私が「今は入らない」と判断したのは、あくまで節税目的では意味がないという理由であって、制度そのものを否定しているわけではありません。

個人事業主も入れます。ただし経費の科目が違います

この共済は法人だけのものではありません。

中小機構の加入資格では、継続して1年以上事業を行っている中小企業者が対象とされていて、個人の事業者も含まれます。

ただし、税務上の扱いが法人と違います。

掛金の扱い
法人 損金に算入
個人事業主 必要経費に算入(事業所得の計算上)

呼び方が違うだけに見えますが、判断のうえでは意味があります。

この記事で書いた「課税所得が出ていなければ節税効果はない」という話は、個人事業主でもそのまま当てはまります。赤字なら、経費を増やしても引くものがありません。

そして、個人事業主の方が本来の目的で必要になりやすいとも思います。

  • 取引先が少数に偏りやすい(元請けが1〜2社、ということが珍しくない)
  • その1社が飛んだら、売上がまるごと消える
  • 法人のように別の財布があるわけでもない

倒産防止という本来の目的で見るなら、取引先が偏っている個人事業主ほど、検討する価値がある制度だと思います。節税で語られがちですが、この制度の本体はそちらです。

なお個人事業主の場合、小規模企業共済との併用も考えどころです。あちらは所得控除、こちらは必要経費で、効き方が違います。 どちらを優先するかは所得の状況によるので、ここは税理士に確認した方が確実です。

まとめ:判断の順番

私はこう整理しました。

  1. まず「何のために入るのか」を決める。 節税か、倒産時の備えか
  2. 節税目的なら、自分の会社に課税所得が出ているかを確認する。 出ていなければ効果はない
  3. 備えが目的なら、課税所得の有無は無関係。 入る価値がある
  4. 入るなら、出口(いつ解約するか)まで先に考える。 2024年10月の改正で、解約後2年間は再加入しても損金にできない

うちは1で「節税」寄り、2で「効果なし」となったので、今は入らず、黒字が定着してから改めて検討することにしました。

「全額損金だから入るべき」という勧め方をよく見かけますが、それが効くかどうかは会社の状況によります。 自分の会社の決算をひととおり見てから決めるべき話でした。

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会社の実務で、同じように自分で調べて整理したものです。


この記事について

本記事は、公開時点で中小機構および国税庁が公表している情報と、筆者自身の検討経過をもとに整理したものです。税務の取扱いは個々の会社の状況によって結論が変わります。 制度や税制は改正されることもありますので、実際の判断にあたっては必ず公式情報をご確認いただき、顧問税理士にご相談ください。本記事は特定の判断を推奨するものではありません。

参考にした公式情報