秋になると、健康診断の案内が届きます。
社員の健康診断は、会社の義務です。費用も会社が持ちます。 ここは知っていました。うちは社員がいるので、毎年やっています。
⚠️ 調べて初めて分かったのは、社長には義務がないということでした。 法律が「受けさせなさい」と言っているのは労働者に対してで、社長は労働者ではありません。つまり、誰も社長に「受けろ」と言ってこない。
🚩 そしてもう1つ。2026年度から、協会けんぽの人間ドックに最高25,000円の補助が始まっていました。 社長も協会けんぽの被保険者なので、対象です。
先に答えを書きます
| 社員 | 社長(代表取締役) | |
|---|---|---|
| 健康診断を受けさせる義務 | 会社にある(年1回、法律上の義務) | ⚠️ ない(労働者ではないため) |
| 費用 | 会社が負担すべきもの(厚生労働省) | 決まりなし。会社で払うなら税務上の条件がある |
| 協会けんぽの生活習慣病予防健診 | 受けられる | 受けられる(被保険者なら同じ) |
| 一般健診の自己負担(35〜74歳) | 最高5,500円 | 最高5,500円 |
| 人間ドック健診の補助(2026年度から) | 最高25,000円 | 最高25,000円 |
| 個人で払った健診代の医療費控除 | ⚠️ 原則対象外 | ⚠️ 原則対象外 |
社員は「義務だから受ける」、社長は「義務がないから自分で決める」。 費用の側は、社長も社員と同じ補助が使えます。順に書きます。
社員の健康診断は、会社の義務で、会社の負担です
労働安全衛生法 第66条は、こう書いています。
事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断を行わなければならない。
**頻度は労働安全衛生規則 第44条**で、
事業者は、常時使用する労働者に対し、一年以内ごとに一回、定期に、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。
費用については、厚生労働省(労働局)のリーフレットにこうあります。
労働安全衛生法の義務に基づいて実施される健康診断の費用は、事業者が負担すべきものです。
受診時に要した時間の賃金は、労使協議により定めるべきものですが、受診に要した時間の賃金は事業者が支払うことが望ましいとされています。
つまり社員の健診は、①年1回やる義務がある ②費用は会社が持つ ③受診中の時間も賃金を払うのが望ましい、の3点セットです。⚠️ パートやアルバイトでも「常時使用する労働者」に当たれば同じです。
🚩 社長には、義務がありません
この法律の「労働者」に、代表取締役は含まれません。 会社と雇用関係にある人が労働者で、社長は会社を経営する側だからです。
⚠️ だから、社長に健康診断を受けさせる義務は、誰にもありません。 会社にも、社長本人にもです。
これが何を意味するか。 社員には毎年案内が来て、日程が組まれて、会社が払う。社長には案内も日程もない。 自分で予約して、自分で行かないと、何年も受けていない状態が普通に起きます。
役員報酬の明細の記事で、社長の身分保障は「失業」の行だけ空いていると書きました。健康診断も同じ構造で、社員なら会社が面倒を見る部分を、社長は自分で面倒を見ることになっています。
そして社長が倒れた場合の影響は、社員より大きい。 経営者保険に入ったのは借入があるからだと書きましたが、保険は倒れた後の話です。倒れないための健診には、義務も案内もない。ここは仕組みの穴だと思いました。
⚠️ ただし、兼務役員(部長などを兼ねていて労働者の実態がある役員)は労働者として扱われるので、健診の義務の対象になります。義務がないのは、代表取締役のように経営に専念している役員です。
協会けんぽの健診は、社長も受けられます
義務はなくても、受けられる仕組みはあります。 会社が協会けんぽに入っていれば、社長も被保険者です。被保険者向けの生活習慣病予防健診は、社長も対象です。
⚠️ ここで混同しやすいのが、社会保険協会です。 名前が似ていますが、健診を運営しているのは**協会けんぽ(全国健康保険協会)**で、社会保険協会とは別の団体です。社会保険協会の会費を払っていなくても、協会けんぽの健診は受けられます。
2026年度(令和8年度)の内容を、協会けんぽの案内から並べます。
| 健診 | 対象(被保険者本人) | 自己負担・補助 |
|---|---|---|
| 一般健診 | 35〜74歳 | 自己負担 最高5,500円 |
| 一般健診(若年) | 20歳・25歳・30歳 | 自己負担 最高2,500円 |
| 節目健診 | 40・45・50・55・60・65・70歳 | 自己負担 最高8,280円 |
| 🚩 人間ドック健診 | 35〜74歳 | 協会けんぽが最高25,000円を補助 |
🚩 人間ドック健診への補助は、2026年度から始まった制度です。 協会けんぽの2026年度の案内では、
人間ドック健診に対する補助を開始。対象 35歳以上の被保険者。
とあります。一般健診は5,500円で受けられ、人間ドックなら25,000円の補助が出る。 年度内に1人1回です。
⚠️ 社長が自分で予約しないと、この補助は使われません。 社員の分は会社が案内しますが、社長の分を案内する人はいないからです。「自分が対象だと知らない」で終わっているケースが、たぶん一番多いと思います。
費用を会社で払うときの税務
社員の健診は義務なので、会社が払って経費です。ここは迷いません。
社長の分を会社で払う場合は、予防接種の記事で書いた国税庁の「人間ドックの費用負担」の考え方がそのまま当てはまります。
- 希望者全員が受けられ、受けた人の全員分を会社が負担するなら、社長の分も含めて福利厚生費
- ⚠️ 役員だけを対象にすると、給与(役員報酬)扱いのおそれ
社員がいる会社で、社員も社長も同じ健診を受けるなら、社長の分を会社が払っても問題は起きにくいという整理です。⚠️ 社長だけ人間ドックの高いコースを会社で払う、のような形は「役員だけ」に見えるので注意が要ります。
個人で払った健診代は、国税庁のQ&Aで、
健康診断等の費用は、疾病の治療を行うものではないので、原則として医療費控除の対象とはなりません。
しかし、健康診断等の結果、重大な疾病が発見され、かつ、その診断等に引き続きその疾病の治療を行った場合には(中略)その健康診断等のための費用も医療費控除の対象になります。
⚠️ 医療費控除に入るのは、病気が見つかって治療に進んだ年だけです。うちは医療費控除で毎年確定申告をしていますが、何も見つからなかった年の健診代は入れられません。
うちで確認すること
⚠️ 誰がいつどの健診を受けているかは書きません。 確認する順番だけ書きます。
- 社員の定期健康診断が年1回、会社負担で回っているか——義務なので、ここは最優先
- 社長自身が、協会けんぽの健診の対象年齢に入っているか——35歳以上なら一般健診、40歳から5歳刻みなら節目健診
- 人間ドック健診の補助(最高25,000円)を使うか——2026年度からなので、まだ使っていない人が大半のはず
- 社長の分を会社で払うなら、社員と同じ条件で「全員対象」になっているか
⚠️ 2番と3番は、社長が自分で動かないと誰もやりません。 社員の健診は放っておいても回りますが、社長の健診は放っておくと止まります。義務がないというのは、そういうことでした。
まとめ
- 社員の健康診断は、年1回・会社負担の義務(労働安全衛生法66条、規則44条)。受診時間の賃金も会社が払うのが望ましい
- 🚩 社長には義務がない。労働者ではないので、法律は何も言っていない。だから案内も日程も来ない
- 協会けんぽの生活習慣病予防健診は、社長も被保険者として受けられる。一般健診は自己負担最高5,500円
- 🚩 2026年度から人間ドック健診に最高25,000円の補助。社長も対象。ただし自分で予約しないと使われない
- 社長の分を会社で払うなら、社員と同じ「全員対象」の形に。役員だけなら給与扱いのおそれ
- ⚠️ 個人で払った健診代は医療費控除の対象外。病気が見つかって治療した年だけ入る
- 社会保険協会と協会けんぽは別の団体。健診をやっているのは協会けんぽ
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この記事について
本記事は執筆時点(2026年9月)にe-Gov法令検索の労働安全衛生法・労働安全衛生規則、厚生労働省(労働局)が公表しているリーフレット、協会けんぽの2026年度の健診案内、国税庁のQ&Aにもとづいて書いています。筆者は社会保険労務士でも税理士でもありません。
⚠️ 協会けんぽの健診の自己負担額・補助額は年度ごとに改定されます。 本記事の金額は2026年度(令和8年度)のもので、健康保険組合に加入している会社は制度が異なります。役員が「労働者」に当たるかどうかは、兼務の実態などによって個別に判断されます。 会社負担の健診費用の税務上の扱いは、対象者の範囲や金額によって異なります。
自社の健診の実施や費用の処理については、必ず社会保険労務士・顧問税理士・協会けんぽの支部にご確認ください。 本記事は一般的な情報提供であり、個別の判断を示すものではありません。