10月になると、インフルエンザの予防接種の案内が届きます。

社員の分を会社で払ったら、経費になるのか。 毎年この時期に出る話なのに、ちゃんと調べたことがありませんでした。そして調べたら、社員と社長で扱いが違いました。

⚠️ もう1つ。私は医療費控除で毎年確定申告をしているので、個人で払った予防接種代が医療費控除に入るのかも調べました。入りません。ただし、別の使い道がありました。

先に答えを書きます

誰が、どう払うか 扱い
社員全員を対象に、会社が払う 福利厚生費。社員側で給与として課税されない
⚠️ 社長・役員だけを対象に、会社が払う 給与(役員報酬)扱いになるおそれ。会社は損金にしにくく、社長側は所得税がかかる
個人で払った予防接種代 ⚠️ 医療費控除の対象外(予防のための費用だから)
ただし 🚩 セルフメディケーション税制の「一定の取組」には該当する。接種の記録が要件を満たす
消費税 課税(健康保険がきかない自由診療なので、非課税の「社会保険医療」に当たらない)

「社員がいる会社は福利厚生費、社長1人の会社は給与」、ざっくり言うとこうなります。理由を順に書きます。

国税庁の考え方は「全員が対象かどうか」です

インフルエンザの予防接種そのものについての国税庁の事例は見つかりませんでした。 ただ、同じ性質の「人間ドックの費用負担」についての質疑応答事例があり、税務の現場ではこれと同じ考え方で扱われています。

国税庁の質疑応答事例「人間ドックの費用負担」の回答は、こうです。

給与等として課税する必要はありません。
役員や特定の地位にある人だけを対象としてその費用を負担するような場合には課税の問題が生じますが、役員又は使用人の健康管理の必要から(中略)一定年齢以上の希望者は全て検診を受けることができ、かつ、検診を受けた者の全てを対象としてその費用を負担する場合には、給与等として課税する必要はありません。

条件を分解すると3つです。

  1. 希望者は全員が受けられる(役員や特定の人だけではない)
  2. 受けた人の全員分を会社が負担する
  3. 健康管理の目的で、一般的な内容・金額である

⚠️ 裏返すと「役員だけ」「特定の人だけ」を対象にした瞬間、給与になります。 予防接種は1人3,000〜5,000円程度なので金額は小さいですが、理屈は人間ドックと同じです。

🚩 社長1人の会社は、ここで引っかかります

**社員がいない会社では、「全員」=「社長だけ」**です。

つまり「役員だけを対象に費用を負担する」形にしかなりません。 条件1の「役員や特定の地位にある人だけ」に、自動的に当てはまります。

⚠️ そうなると、会社が払った予防接種代は社長への給与(役員報酬)として扱われる可能性が高い。これが効くのは2か所です。

3,000円のために、そこまでの手間をかける話ではありません。 社長1人の会社なら、個人で払って会社の経費にしないのが一番きれいです。「会社の経費にできないか」と考えるより、「給与扱いになるなら個人で払うのと同じ」と割り切るほうが早いと思いました。

⚠️ ただし、役員と社員が両方いる会社で、社員も含めた全員を対象にするなら、社長の分も福利厚生費に含められます。 条件は「全員」です。社長が対象に入っていること自体は問題ではありません。

個人で払った予防接種代は、医療費控除に入りません

私は医療費控除で毎年確定申告をしているので、ここは自分ごとでした。

国税庁のタックスアンサー No.1122にはこうあります。

治療または療養に必要な医薬品の購入の対価(風邪をひいた場合の風邪薬などの購入代金は医療費となりますが、ビタミン剤などの病気の予防や健康増進のために用いられる医薬品の購入代金は医療費となりません。)

予防接種は「病気の予防」なので、対象外です。健康診断や人間ドックも同じで、国税庁のQ&Aでは「疾病の治療を行うものではないので、原則として医療費控除の対象とはなりません」とされています。

⚠️ 予防接種の領収書を医療費控除の明細に入れても、控除にはなりません。 医療費控除をしている人ほど、うっかり入れやすいところです。

🚩 ただし、セルフメディケーション税制の「入場券」にはなります

ここが調べて一番役に立った点です。

セルフメディケーション税制(No.1129)は、ドラッグストアで買う対象の市販薬(スイッチOTC医薬品)の購入費が年12,000円を超えたとき、超えた分(最高88,000円)を所得控除できる制度です。ただし条件があって、「一定の取組」をしている人しか使えません。 その「一定の取組」に、こう書かれています。

3 予防接種<定期予防接種、インフルエンザワクチンの予防接種

つまり、インフルエンザの予防接種を受けていれば、この制度を使う条件を満たします。 接種代そのものは控除の対象になりませんが(国税庁も「一定の取組に要した費用は対象とならない」と明記)、「取組をした証明」として領収書や接種済証を残しておく必要があります。

⚠️ 注意点は、通常の医療費控除との選択制であることです。両方は使えません。うちのように医療費控除を使う年は、セルフメディケーション税制は使えないので、どちらが大きいかを比べて選びます。市販薬をよく買う一人暮らしの人や、医療費が10万円に届かない年は、セルフメディケーションのほうが効くことがあります。

消費税と勘定科目

会社で払う場合の経理の話です。

  • 勘定科目は「福利厚生費」(全員対象の場合)
  • 消費税は課税国税庁 No.6201で非課税とされているのは「健康保険法、国民健康保険法などによる医療」で、予防接種は健康保険がきかない自由診療なので、非課税に当たりません。会社が払えば仕入税額控除の対象になります

⚠️ 健康診断と同じで、「医療だから非課税」と思って処理していると消費税がずれます。 額は小さいですが、毎年続くなら直しておく価値があります。

うちで確認すること

⚠️ うちで誰の分をいくら払っているかは書きません。 確認する順番だけ書きます。

  1. 対象を「希望者全員」にする——社内の案内や規程に、役員も社員も全員が対象だと書いておく。「役員だけ」に見える形にしない
  2. 領収書は会社宛でまとめる——福利厚生費で処理するなら、会社が払った証拠を残す
  3. 個人で払った分は医療費控除に入れない——ただし接種済証・領収書は捨てない。セルフメディケーション税制を使う年に要る
  4. 医療費控除とセルフメディケーション税制、どちらが大きいかを年末に比べる

⚠️ 1番が肝です。 同じお金を払っても、「全員」と書いてあるかどうかで福利厚生費か給与かが分かれます。 3,000円の話ですが、人数分×毎年なので、形だけは整えておく価値があります。

まとめ

  • 社員全員を対象に会社が払えば福利厚生費。国税庁の「人間ドックの費用負担」の考え方と同じで、希望者全員・全員分負担・一般的な内容が条件
  • 🚩 社長・役員だけを対象にすると給与扱い。社長1人の会社は「全員=社長だけ」なので、個人で払うほうがきれい
  • ⚠️ 個人で払った予防接種代は医療費控除の対象外(予防のための費用)
  • 🚩 ただしセルフメディケーション税制の「一定の取組」に該当。接種の証明を残せば、市販薬の購入費(12,000円超〜88,000円)の控除が使える。医療費控除とは選択制
  • 消費税は課税(自由診療)。勘定科目は福利厚生費
  • 「全員が対象」と書いてあるか、これだけ確認する

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この記事について

本記事は執筆時点(2026年9月)に国税庁が公表している質疑応答事例「人間ドックの費用負担」タックスアンサー No.1122No.1129No.6201にもとづいて書いています。筆者は税理士ではありません。

⚠️ インフルエンザ予防接種の費用負担について、国税庁の直接の事例はありません。 本記事は人間ドックの費用負担に関する質疑応答事例の考え方を当てはめたもので、実際の課税関係は会社の規程・対象者・金額など個別の事情によって異なります。セルフメディケーション税制は令和8年12月31日までの支払いが対象で、通常の医療費控除との選択適用です。

自社の処理や確定申告での取扱いについては、必ず顧問税理士にご確認ください。 本記事は一般的な情報提供であり、個別の判断を示すものではありません。