うちは源泉所得税を、毎月納めています。

給与から天引きした所得税を、翌月10日までに毎月。納期の特例は使っていません。

この制度を解説している記事は、たいてい「事務が年12回から2回になるので楽」と書いてあります。

私は、毎月のほうが楽だと思っています。

理由をうまく言えずにいたので、調べて整理しました。結論から言うと、まとめるということは1回が大きくなるということでした。

源泉所得税の納付は、原則毎月です

まず制度です。

給与などから源泉徴収した所得税および復興特別所得税は、支払った月の翌月10日までに納めるのが原則です(国税庁)。

そして給与の支給人員が常時10人未満の場合、申請すれば年2回にまとめられます。これが納期の特例です。

納付の期限
1月〜6月に源泉徴収した分 7月10日
7月〜12月に源泉徴収した分 翌年1月20日

使うには「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を出します。申請書を提出した月の翌月末日に承認があったものとみなされ、その翌月に源泉徴収する分から適用されます。

「事務が年12回から2回になる」は本当です

先にメリット側を書きます。これは事実です。

毎月の納付書の作成と納付が、年2回になります。事務としては、単純に6分の1です。

小さい会社ほど、この手間は無視できません。経理担当がいない会社なら、毎月10日という締めが年12回あること自体が負担です。

だから多くの解説記事が勧めています。

ただ、ここで一度立ち止まりました。その「手間」は、今も同じ大きさなのかという点です。

その「事務の手間」は、今も同じですか

うちは e-Tax で納めています。

正確に書くと、e-Taxで徴収高計算書を送信して、インターネットバンキングから振り込む形です。銀行の窓口には行きません。納付書も書きません。

画面で完結します。

「年12回は大変」という前提は、紙の納付書を持って金融機関の窓口に行っていた時代のものだと思います。月に一度、銀行に行くために時間を空ける——それなら、年2回になる価値は大きい。

でも今は、その手間がほとんどありません。

特例の最大のメリットは「事務が楽になること」です。そしてその事務が、そもそも軽くなっている。だとすると、残るのは「1回が6倍になる」というデメリットのほうです。

ただし、これは電子納付の準備ができている会社の話です。

e-Taxの利用開始手続きは必要ですし、そこを越えていない会社にとっては、今でも毎月の納付は手間です。その場合、特例の価値は変わらず大きいと思います。

私が「毎月のほうが楽」と言えるのは、先に電子納付にしているからでした。順番が逆だったら、同じことは言えません。

さらに楽にする方法があります(私はまだ使っていません)

調べていて分かったのですが、ダイレクト納付という方法があります。

事前に口座を届け出ておけば、e-Taxからの操作だけで、その口座から引き落とされます。インターネットバンキングを開いて振り込む、という手順そのものがなくなります。

私は使っていません。毎回、e-Taxで送信してから振込操作をしています。これを機に切り替えるつもりです。

手続きはこうなっています。

必要な書類 ダイレクト納付利用届出書
提出先 納税地等を所轄する税務署
提出方法 オンライン提出は個人のみ。法人は書面
使えるまでの期間 書面で約1か月/e-Taxで約1週間
納付のしかた 今すぐ納付か納付日を指定かを選べる

(国税庁・e-Tax)

注意点が3つあります。

① すぐには使えません。 法人は書面提出なので約1か月かかります。納付期限の直前に思い立っても間に合いません。

② 金融機関によっては使えません。 国税庁の「利用可能金融機関一覧」で確認が必要です。

③ 納期限当日に送信した場合は、納付日を指定できません。 その場合は即時納付になります。

なお領収証書は発行されませんが、これはダイレクト納付に限りません。インターネットバンキングでの納付も同じです。領収証書が出るのは、金融機関や税務署の窓口で納付書を使って納めた場合だけです。窓口から切り替える人は、ここが変わります。

「毎月払うほうが楽」と言っておきながら、まだ一番楽な方法を使っていませんでした。これも、判断していなかったことのひとつです。

ただし、まとめるということは1回が大きいということです

ここが、私が引っかかっていた点でした。

年12回が年2回になるということは、1回あたりが6倍になるということです。 出ていくお金の総額は変わりません。変わるのは、いつ、いくら出ていくかだけです。

これは消費税の中間納付を調べたときと同じ構造でした。まとめると、きついタイミングが生まれます。

7月10日に、何が重なるか

そしてその日付が問題です。

7月10日は、他の期限と重なっています。

7月10日ごろに来るもの
源泉所得税(特例分) 1〜6月にまとめた半年分
算定基礎届 提出期限は毎年7月10日(日本年金機構)
労働保険の年度更新 期間は6月1日〜7月10日(厚生労働省)
夏の賞与 出している会社は、この時期

事務も支出も、7月上旬に集中します。

1月20日のほうも、年末年始が明けた直後です。決して余裕のある時期ではありません。

「年2回で楽」というのは、事務の回数の話です。資金繰りの話ではありません。

半年分を、預かったまま持つことになります

もうひとつ、これが私にとっては大きい点です。

天引きした所得税は、預かっているお金です。従業員の給与から差し引いて、会社が代わりに納めるために持っているだけです。

特例を使うと、それを最大6か月間、手元に置くことになります。

消費税のときにも書きましたが、手元にあるお金は、いったん使います。私は自分がそうすると思っています。

毎月出ていけば、使いようがありません。

これが、私が毎月を選んでいる一番の理由でした。事務が楽になるより、手元に置かないほうがいい。調べて、ようやく言葉になりました。

特例の対象は、給与だけではありません。でも全部でもありません

ここは知らないと間違えます。

納期の特例の対象になるのは、次の2つだけです(国税庁)。

  • 給与や退職金から源泉徴収した分
  • 税理士、弁護士、司法書士など一定の報酬から源泉徴収した分

これ以外は、対象外です。

たとえばデザイン料・原稿料・講演料などから源泉徴収した分は、特例を使っていても毎月納付が必要です。

まとめて年2回にしていると、期限後納付になります。

そもそも、法人に払う報酬は源泉徴収しません

これは、うちで実際に起きた話です。

顧問税理士が税理士法人になりました。それ以降、源泉徴収していません。

理由は単純で、源泉徴収が必要なのは個人に支払う場合だからです。税理士法人・弁護士法人などの法人に支払う報酬は、源泉徴収の対象になりません。

同じ「税理士に払う報酬」でも、相手が個人か法人かで扱いが変わります。

  • 個人の税理士・弁護士・司法書士→ 源泉徴収が必要。特例の対象にもなる
  • 税理士法人・弁護士法人など→ そもそも源泉徴収しない

うちは司法書士に払うことがたまにありますが、これも相手が個人か法人かで変わるということになります。

請求書を見て「先生に払うから源泉徴収」と機械的に処理していると、間違えます。

遅れると、どうなるか

源泉所得税には、遅れたときのペナルティが別にあります。

不納付加算税です。法定納期限までに納めなかった場合、原則として納付税額の10%。税務署から指摘される前に自主的に納付した場合は5%になります。

1日でも遅れると、10%は重い。

ただし、救済もあります。国税庁の事務運営指針では、法定納期限の翌日から1か月以内に納付され、かつ直前1年間に納付の遅延がない場合などは、正当な理由があると認められる場合に該当するものとして取り扱うとされています(国税庁)。

うっかり1回遅れただけで即10%、ではありません。ただし普段から遅れている会社には、この救済がありません。

年2回にまとめるということは、その2回を絶対に落とせないということでもあります。毎月払っていれば、1回落としても額は12分の1です。

私が毎月を続ける理由

整理すると、こうなりました。

事務の手間 まとめたほうが楽。ただし e-Tax のダイレクト納付なら、毎月でもほぼ手間がない
1回あたりの額 毎月のほうが小さい。読みやすい
重なる時期 7月10日と1月20日は、他の期限と支出が集中する
預かり金を持つ期間 毎月なら最長1か月。特例なら最長6か月
落としたときの影響 毎月なら12分の1。特例なら6か月分

私は、事務の手間より、額を小さく保つほうを取っています。 そして電子納付にしたことで、そもそも手間の差が小さくなりました。

ただし、これは「特例を使うな」という話ではありません。

経理担当がいない会社で、毎月10日の締めが実際に負担になっているなら、特例の価値は大きいと思います。そして納税用に別口座を用意して、天引きした分をそこに移しておけば、私の心配は消えます。

要するに、預かったまま使ってしまう自分を信用していない、というだけの話でした。消費税のときと同じ結論です。

そして人数が増えて常時10人以上になれば、そもそも使えません。そのときは考える必要すらなくなります。

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この記事について

本記事は執筆時点(2026年8月)の制度内容と、筆者自身の経験にもとづいて書いています。筆者は税理士ではありません。

納期の特例の要件・対象範囲・納付期限は改正されることがあります。期限が土日祝日にあたる場合は翌営業日になります。源泉徴収の要否は、支払先が個人か法人か、また支払う報酬の種類によって変わります。具体的な取り扱いについては、国税庁の最新情報を確認のうえ、顧問税理士または所轄の税務署にご確認ください。