契約書に貼る収入印紙。電子契約にすると要らなくなると聞いて、本当かどうかを確かめました。
根拠は、思っていたより短い2行でした。
そして調べているうちに、知らないと逆に損をする落とし穴が2つあることも分かりました。
根拠は、国税庁の質疑応答事例に2行で書いてあります
国税庁の質疑応答事例です。照会の書き出しに驚きました。
当社は建設工事を請け負っていますが、取引先から受注するに当たり、請負契約の成立を証するものとして書面で注文請書を作成することに代えて、受注する旨や請負内容等の取引情報を記録した電磁的記録に当社の電子署名を付したものを取引先に電子メールで送信しています。この電磁的記録は、印紙税の課税対象となるのでしょうか。
うちと同じ立場の会社が聞いています。 回答はこれだけです。
印紙税の課税対象となるのは、課税物件表の物件名欄に掲げられている文書であり、電磁的記録は文書に含まれません。
したがって、おたずねの電磁的記録に印紙税は課税されません。
根拠法令は「印紙税法第2条」の一本です。
⚠️ 「電子契約は特別に免除されている」のではありません。 そもそも課税の対象になっていない、という話です。
なぜ「文書ではない」で終わるのか
もう少し踏み込んだ説明が、福岡国税局の文書回答事例にありました(平成20年)。
理屈は**「作成」の意味**にあります。
課税文書の「作成」とは、印紙税法基本通達第44条により「単なる課税文書の調製行為をいうのでなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使すること」とされ、課税文書の「作成の時」とは、相手方に交付する目的で作成される課税文書については、当該交付の時であるとされている
印紙税は「作った時」ではなく「渡した時」にかかります。
注文請書の調製行為を行ったとしても、注文請書の現物の交付がなされない以上、たとえ注文請書を電磁的記録に変換した媒体を電子メールで送信したとしても、ファクシミリ通信により送信したものと同様に、課税文書を作成したことにはならない
ファックスと同じ扱い、というのが分かりやすいと思いました。紙が相手に渡っていないから、課税が発生しない。
福岡国税局の回答は「ご照会に係る事実関係を前提とする限り、貴見のとおりで差し支えありません」でした。
⚠️ 落とし穴①:あとから紙を渡すと、その紙に印紙が要ります
同じ文書回答事例に、こう書いてあります。
ただし、電子メールで送信した後に本注文請書の現物を別途持参するなどの方法により相手方に交付した場合には、課税文書の作成に該当し、現物の注文請書に印紙税が課される
⚠️ 「電子で送ったから0円」ではありません。 そのあとで「一応、紙も置いていきます」をやると、その紙に印紙が必要になります。
電子契約を入れても、現場の運用が「念のため紙も」で残っていると意味がありません。 ここは仕組みより習慣の問題だと思いました。
⚠️ 落とし穴②:写しでも、署名や押印があれば課税されます
もう1つ、契約書の写しの扱いです。
課税されないもの
- 正本を複写機でコピーしただけのもので、署名も押印も証明もないもの
- ファックスや電子メールで送信して、送付先で出力した文書(正本は送付元に保存されているため)
⚠️ 課税されるもの
- 契約当事者の双方、または文書の所持者以外の一方の署名または押印があるもの
- 「正本と相違ない」などの証明があるもの
「写し」と書いてあっても関係ありません。 国税庁は「写し、副本、謄本と表示された文書であっても、契約の成立を証明する目的で作成されるものは印紙税の課税対象」としています。
⚠️ 1つの契約で2通作れば、2通とも課税されます。 「印紙は1通分でいい」ではありません。
なお、自分だけの印鑑を押したものは、相手方に対して証明の用をなさないので課税対象外です。
いくら違うのか
請負契約書は**第2号文書「請負に関する契約書」**です。税額はこうなっています。
そして建設工事の請負契約書には軽減措置があります(租税特別措置法。平成26年4月1日から令和9年3月31日までに作成されるもので、記載金額が100万円を超えるものが対象)。
| 契約金額 | 通常 | 建設工事(軽減後) | 電子契約 |
|---|---|---|---|
| 1万円未満 | 非課税 | - | 0円 |
| 100万円以下 | 200円 | 200円(対象外) | 0円 |
| 100万円超〜200万円以下 | 400円 | 200円 | 0円 |
| 200万円超〜300万円以下 | 1,000円 | 500円 | 0円 |
| 300万円超〜500万円以下 | 2,000円 | 1,000円 | 0円 |
| 500万円超〜1,000万円以下 | 1万円 | 5,000円 | 0円 |
| 1,000万円超〜5,000万円以下 | 2万円 | 1万円 | 0円 |
| 5,000万円超〜1億円以下 | 6万円 | 3万円 | 0円 |
| 1億円超〜5億円以下 | 10万円 | 6万円 | 0円 |
⚠️ 軽減措置は令和9年3月31日までです。 延長されてきた措置ですが、今のところ期限は決まっています。
そして、金額に関係なく効くものがもう1つあります。
基本契約書です。継続的取引の基本となる契約書(第7号文書)は、1通につき4,000円。⚠️ 契約金額がいくらでも4,000円で、契約期間が3か月以内かつ更新の定めがないものだけが除かれます。
下請基本契約書や売買取引基本契約書が典型です。取引先の数だけ発生します。
電子にすると、印紙以外も変わります
印紙代だけを見ると「1件あたり数千円か」という話に見えます。ですが、消えるのはお金だけではありませんでした。
- 印紙を買いに行く手間
- 金額の判定(いくらの契約はいくらの印紙か、を毎回調べる)
- 貼り忘れ・金額の間違い
- 保管
⚠️ 貼り忘れの罰は重いです。 国税庁のタックスアンサーによると、作成の時までに納付しなかった場合は本来の印紙税額の3倍の過怠税。自分から「納めていません」と申し出た場合(調査を予知してのものでないとき)は1.1倍に軽減されます。消印を忘れた場合も、その印紙の額面と同じ額が取られます。
🚩 そして、ここが一番大きいと思いました。
なお、過怠税は、その全額が法人税の損金や所得税の必要経費には算入されません
⚠️ 過怠税は経費になりません。 3倍払ったうえに、その全額が税務上ないものとして扱われます。印紙税そのものは租税公課として経費になるのに、罰の部分は一切引けない、ということです。
ただし、電子にすると別の義務が来ます
⚠️ ここは正直に書いておきます。
電子で受け取った契約書は、電子帳簿保存法の「電子取引」に当たります。 つまり電子データのまま、要件を満たして保存する義務が発生します。
印紙税が消えて、保存義務が来る——これが実態です。⚠️ **「電子にすれば楽になる」ではなく、「別のものに置き換わる」**と考えたほうが正確だと思います。
もっとも、請求書や領収書はすでに電子で来る時代です。 契約書だけ紙で残す理由は、年々薄くなっています。
🚩 うちの場合、決めたのは自分ではありませんでした
この記事は「電子契約を入れるかどうか」を考えるつもりで書き始めました。 書きながら気づきました。
うちは、すでに2つの経路で電子になっています。
- 元請から「電子で」と言われた、工事の契約
- 銀行の借入の契約
⚠️ どちらも、自分で決めたわけではありません。相手から電子で来ています。
考えてみれば当たり前でした。 契約には相手があります。電子にするかどうかは、片方だけでは決められません。 そして先に決めるのは、発注する側と、貸す側です。
下請け側から見ると、順番はこうなります。
| 実際に起きること | |
|---|---|
| 思っていた順番 | 検討する → 導入する → 印紙代が浮く |
| 実際の順番 | 対応を求められる → 気づいたら一部が電子 → 結果として印紙代が浮いていた |
⚠️ 印紙税が消えているのは、自分の判断の結果ではありませんでした。
そして、残りにも同じことが起きます。 元請が切り替えれば、こちらの意思に関係なく電子になります。「うちはまだ早い」と思っていても、順番は向こうが決めます。
⚠️ だから落とし穴①は、他人事ではありません。 元請の指定で電子にした案件について、こちらが「念のため紙でも」を出したら、その紙に印紙が必要になります。電子で送ったから0円、ではありません。
⚠️ 借入のほうは、印紙代の桁が違います
金銭消費貸借契約書は第1号文書です。税額はこうなっています。
| 契約金額 | 印紙税額 | 電子契約 |
|---|---|---|
| 100万円超〜500万円以下 | 2,000円 | 0円 |
| 500万円超〜1,000万円以下 | 1万円 | 0円 |
| 1,000万円超〜5,000万円以下 | 2万円 | 0円 |
| 5,000万円超〜1億円以下 | 6万円 | 0円 |
| 1億円超〜5億円以下 | 10万円 | 0円 |
⚠️ そして、消費貸借契約書には軽減措置がありません。 軽減があるのは不動産の譲渡と建設工事の請負だけです。借入は、表の金額がそのままかかります。
設備投資で借りるような金額だと、印紙代だけで数万円です。⚠️ 借入は、印紙税がいちばん重く効く契約だと思いました。
残っている宿題は、発注する側です。 うちが下請けに出すときの契約書がどうなっているか、実は確認していません。 ⚠️ そこは自分で決められる側なので、印紙税がそのまま効いてきます。 次に見ます。
まとめ
- 電子契約に印紙税はかからない。 根拠は印紙税法第2条で、電磁的記録は「文書」に含まれないから
- 免除ではなく、そもそも課税対象ではない
- 印紙税は作った時ではなく渡した時にかかる。紙が渡らなければ課税されない(ファックスと同じ扱い)
- ⚠️ 電子で送ったあとに紙を別途渡すと、その紙に印紙が要る
- ⚠️ 写しでも、双方または所持者以外の一方の署名・押印があれば課税される。 単なるコピーやメール出力は課税対象外
- 建設工事の請負契約書には軽減措置がある(100万円超が対象・令和9年3月31日まで)
- 基本契約書(第7号文書)は金額に関係なく1通4,000円
- 🚩 電子にするかは片方では決められない。 先に決めるのは発注する側と、貸す側。下請け側には「検討」より先に**「対応の要請」が来る**
- ⚠️ 借入(金銭消費貸借契約書)は第1号文書で、軽減措置がない。 5,000万円超1億円以下で6万円、1億円超で10万円
- ⚠️ 貼り忘れの過怠税は原則3倍(自主的な申し出なら1.1倍)。しかも過怠税は全額が損金・必要経費にならない
- ⚠️ 電子にすると、電子帳簿保存法の保存義務が来る。 楽になるのではなく置き換わる
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この記事について
本記事は執筆時点(2026年8月)に国税庁が公表している質疑応答事例・タックスアンサー・福岡国税局の文書回答事例にもとづいて書いています。筆者は税理士ではありません。
⚠️ 引用した質疑応答事例・文書回答事例は、いずれも「照会に係る事実関係を前提とした一般的な回答」であり、国税庁・国税局自身が「具体的な取引等に適用する場合においては、この回答内容と異なる課税関係が生ずることがある」と注記しています。 また文書回答事例には「事前照会者の申告内容等を拘束するものではありません」との但し書きがあります。
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