電子契約と印紙税の記事を書いたあとで、当たり前のことが分からないと気づきました。
その契約書、何年取っておくのか。
調べたら、根拠になる法律が4つあって、期間も、数え始める日も、全部違いました。
まず、答えの一覧です
請負契約書について整理すると、こうなります。
| 根拠 | 期間 | いつから数えるか |
|---|---|---|
| 法人税法 | 7年(欠損金が出た事業年度は10年) | 確定申告書の提出期限の翌日から |
| 会社法432条2項 | 10年 | 会計帳簿の閉鎖の時から |
| 建設業法(帳簿に添付する契約書) | 5年(発注者と結んだ住宅の新築は10年) | 工事の目的物を引き渡したときから |
| 建設業法(営業に関する図書) | 10年 | 引渡しのときから |
一番長いものに合わせるなら10年です。先に結論を書いておきます。
ただ、ここで終わらせると事故ります。
⚠️ 引っかかるのは、期間ではなく「数え始める日」です
表をもう一度見てください。起算点が違います。
- 法人税法は「確定申告書の提出期限の翌日」から7年
- 建設業法は「工事の目的物を引き渡したとき」から5年
工事が年をまたぐと、同じ契約書について、2つの締切がズレます。
たとえば、ある工事を引き渡したのが期の途中だったとします。建設業法の5年はその日から動き始めますが、法人税法の7年はその事業年度の申告期限の翌日からです。
⚠️ 「建設業法上はもう5年経った」で捨てると、税務上はまだ必要ということが起こります。
期間の長さだけを覚えても足りません。 ここが一番の落とし穴でした。
建設業法:契約書は「帳簿そのもの」ではありません
ここは整理が要ります。
建設業者は営業所ごとに帳簿を備える義務があり(建設業法第40条の3)、その帳簿に契約書またはその写しを添付します(施行規則第26条第2項)。電磁的記録でもかまいません。
つまり**契約書は「帳簿に添付する書類」**という位置づけです。
保存期間は施行規則第28条にあります。
当該建設工事の目的物の引渡しをしたとき(当該建設工事について注文者と締結した請負契約に基づく債権債務が消滅した場合にあつては、当該債権債務の消滅したとき)から五年間(発注者と締結した住宅を新築する建設工事に係るものにあつては、十年間)
⚠️ 住宅を新築する工事だけ10年です。瑕疵担保の期間に合わせたものと思われます。
そしてもうひとつ、10年のものがあります。
第二十六条第五項に規定する図書(…)の保存期間は、請け負つた建設工事ごとに、当該建設工事の目的物の引渡しをしたときから十年間とする
この「図書」は、完成図・発注者との打合せ記録・施工体系図です(施行規則第26条第5項)。⚠️ 契約書とは別枠で、こちらは一律10年です。
法人税法:7年。ただし赤字の年は10年
国税庁の表現はこうです。
その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間
契約書が対象に入るかも、はっきり書かれています。「その帳簿と取引等に関して作成または受領した書類」で、具体例として注文書、契約書、領収書が挙げられています。
⚠️ そして、10年になる場合があります。
青色申告書を提出した事業年度で欠損金額(青色繰越欠損金)が生じた事業年度…においては、10年間(平成30年4月1日前に開始した事業年度は9年間)
赤字の年が1年でもあると、その事業年度の書類は10年です。「うちは7年」と思っていても、過去に赤字の年があればその年だけ10年になります。
会社法:10年。ただし契約書が入るかは解釈です
会社法432条2項では、株式会社は会計帳簿の閉鎖の時から10年間、会計帳簿とその事業に関する重要な資料を保存することになっています。
⚠️ 「事業に関する重要な資料」に請負契約書が入るかは、条文に書いてありません。 実務では入ると考えるのが一般的ですが、そこは解釈です。
結局、これも10年なので、10年で揃えておけば考えなくて済みます。
⚠️ 電子契約だと、保存の「方法」が変わります
ここからが本題かもしれません。
**電子で受け取った契約書は、電子帳簿保存法の「電子取引」**です。⚠️ 紙に印刷して10年ファイリング、では要件を満たしません。電子データのまま保存する必要があります。
| 中身 | |
|---|---|
| 可視性の確保 | ①モニター・操作説明書等の備付け ②検索要件(取引年月日・取引金額・取引先で探せること) |
| 真実性の確保 | タイムスタンプ/訂正・削除の履歴が残る(またはできない)システム/事務処理規程を作って守る のいずれか |
⚠️ 専用システムがなくても、事務処理規程を作れば真実性は満たせます。 国税庁がサンプルを公開しています。
そして、検索要件には免除があります。
2課税年度前の売上高が5,000万円以下の方、または電子取引データをプリントアウトして日付及び取引先ごとに整理されている方は、電子取引データの「ダウンロードの求め」に応じることができるようにしていれば、②の要件は不要
⚠️ 売上5,000万円を超えている会社は、この免除を使えません。 サービスやソフトの検索機能で満たすことになります。
⚠️ もうひとつ、幅の広い救済があります
準備が間に合わない場合の猶予措置です。⚠️ これは期限つきの経過措置ではなく、恒久的な措置です(期限つきだった「宥恕措置」は令和5年12月31日で廃止されました)。
内容はこうです。
- ⑴ 保存のルールに従えなかったことについて、所轄税務署長が相当の理由があると認める場合(⚠️ 事前申請は不要)
- ⑵ 税務調査等の際に、データのダウンロードの求めと、プリントアウトした書面の提示・提出の求めの両方に応じられる場合
この2つを満たせば、電子取引データを保存しておくだけでよいとされています。
⚠️ 「相当の理由」は幅広く認められます。 国税庁の資料には**「人手不足」「システム整備が間に合わない」「資金不足」**が例として挙がっています。
ただし、これは「保存しなくていい」ではありません。 データを消さずに持っていることは前提です。
⚠️ サービスに預けている場合、見落としやすいところ
取引先が使っている電子契約サービス上に契約書が置かれている、という形は増えています。うちもそうです。
そのとき、確認したほうがいいことが2つあると思いました。
① 「自分でアップロードしたもの」は、扱いが違うかもしれません
多くのサービスには、サービス上で締結したものと、自分でアップロードして保管しているものの両方が入ります。
⚠️ **紙の契約書をスキャンして入れているなら、それは「電子取引」ではなく「スキャナ保存」**です。解像度や階調、入力の期間、タイムスタンプなど、要件が別物になります。同じ画面に並んでいても、法律上は別扱いということが起こります。
② 解約したあと、そのデータはどうなるか
保存期間は最長10年です。⚠️ サービスを解約したあとにデータが残るのか、何年残るのかは、契約内容によります。
自社の法定保存を、他社の運用に預けている状態だと考えると、年に1回でもダウンロードして自社にコピーを置いておくのは、義務ではなくても意味があると思いました。
⚠️ 要件を満たしていることと、10年後に実際に取り出せることは、別の話です。
うちの場合
うちは、元請と銀行から電子で来たものが、それぞれのサービス上にあります。 印紙税の記事で書いたとおり、自分で決めたものではありません。
⚠️ 調べて分かった宿題は2つです。
- サービスに自分でアップロードしているものが何か。スキャナ保存に当たるものが混ざっていないか
- 解約後にデータが何年残るのか
どちらも「今は困っていない」ことなので、放っておくと確認しません。 ⚠️ 困るのは、10年後か、解約するときです。
それと、事務処理規程を作っているかどうかも確認していません。 サービス側が訂正削除の履歴を持っていれば要りませんが、自社でアップロードしている分については別の話になります。
まとめ
- 請負契約書の保存期間は、法人税7年/会社法10年/建設業法5年(住宅の新築は10年)。10年で揃えるのが安全
- ⚠️ 期間より、起算点が違うことが落とし穴。 法人税は申告期限の翌日、建設業法は引渡しのときから
- 建設業法上、契約書は「帳簿に添付する書類」。電磁的記録でよい
- 完成図・打合せ記録・施工体系図は別枠で一律10年
- ⚠️ 赤字(欠損金)が出た事業年度の書類は10年
- 電子で受け取ったものは電子のまま保存。 印刷してファイリングでは要件を満たさない
- ⚠️ 検索要件の免除は「2課税年度前の売上高5,000万円以下」など。 超えていれば使えない
- ⚠️ 猶予措置は恒久的な措置で、「人手不足」でも認められる。 ただしデータを消さないことが前提
- ⚠️ サービスに預けている場合、「自分でアップロードした分」と「解約後」を確認する
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この記事について
本記事は執筆時点(2026年8月)の法令と、国税庁・国土交通省が公表している資料にもとづいて書いています。筆者は税理士でも行政書士でもありません。
保存期間は、法人か個人か、業種、許可の有無、書類の種類によって変わります。 また、会社法の「事業に関する重要な資料」に何が含まれるかは解釈の余地があり、電子取引・スキャナ保存の要件の当てはめも、実際のデータの受け取り方によって変わります。
自社が何を何年保存すべきか、また電子データの保存が要件を満たしているかについては、必ず顧問税理士または所轄の税務署・行政庁にご確認ください。 本記事は一般的な情報提供であり、個別の判断を示すものではありません。