経過措置の記事で、令和9年分・令和10年分は個人事業者だけ3割特例が使えると書きました。
書きながら引っかかっていたことがあります。簡易課税と、どちらが得なのか。
国税庁は「適用可能なら誰しも3割特例を適用した方が良いの?」という問いを自分で立てて、そうとは限らないと答えています。ただ、どの業種ならどちらかまでは書いていません。
並べてみたら、はっきりした答えが出ました。
⚠️ 先に書いておくと、私は法人なので3割特例は使えません。 自分の判断ではなく、調べた結果の整理です。
2つとも「売上だけで納税額が決まる」制度です
まず、この2つは同じ形をしています。
どちらも、仕入れや経費の消費税を集計しません。 売上の消費税額に一定の率をかけて、それを控除したものが納税額になります。インボイスの保存も要りません。
3割特例は、こうです。
売上げの消費税額 - 売上げの消費税額 × 70% = 納付する税額(=売上税額の3割)
簡易課税も、形は同じです。
売上に係る消費税額 - 売上に係る消費税額 × みなし仕入率 = 納付する税額
違うのは、かける率だけです。 3割特例は業種にかかわらず70%固定。簡易課税は業種ごとに率が決まっています。
ということは、みなし仕入率が70%より大きいか小さいかで、答えが出ます。
業種ごとに並べると、こうなります
国税庁のタックスアンサーにある6つの区分です。
| 事業区分 | 主な業種 | みなし仕入率 | 3割特例(70%)と比べると |
|---|---|---|---|
| 第1種 | 卸売業 | 90% | 簡易課税が有利 |
| 第2種 | 小売業、飲食料品の農林漁業 | 80% | 簡易課税が有利 |
| 第3種 | 建設業・製造業、鉱業、農林漁業(飲食料品を除く)、電気・ガス・熱供給・水道業 | 70% | まったく同じ |
| 第4種 | 上記・下記のいずれにも当たらない事業 | 60% | 3割特例が有利 |
| 第5種 | サービス業(飲食店を除く)、運輸通信業、金融・保険業 | 50% | 3割特例が有利 |
| 第6種 | 不動産業 | 40% | 3割特例が有利 |
第3種でぴったり重なります。
建設業・製造業の個人事業主は、3割特例と簡易課税で納税額がまったく同じになります。どちらを選んでも1円も変わりません。
そして第4種より下は、全部3割特例のほうが納税額が少なくなります。
⚠️ ここで、一人親方の分かれ目があります
第3種の説明には、但し書きがついています。
第1種事業、第2種事業に該当するものおよび加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を除きます
建設業でも、この但し書きに当たると第3種から外れて第4種(60%)になります。
では何が当たるのか。国税庁の質疑応答事例に書いてあります。
対価たる料金の名称のいかんを問わず、他の者の原料若しくは材料又は製品等に加工を施して、その対価を受領する役務の提供が該当する
材料が誰のものか、です。
| 事業区分 | みなし仕入率 | |
|---|---|---|
| 自分で材料を仕入れて施工する | 第3種 | 70% |
| 材料は元請が支給し、手間だけを請ける | 第4種の可能性 | 60% |
⚠️ 手間請け・常用で入っている一人親方は、第4種になる可能性があります。 そしてその場合、3割特例のほうが納税額は少なくなります。
⚠️ ただし、これは断定できません。 国税庁自身が「事業の区分は、原則として課税資産の譲渡等ごとに判定する」としており、取引ごとの判定になります。同じ人でも、材料込みの工事と手間だけの工事が混ざっていれば分かれます。
⚠️ もうひとつ注意があります。 質疑応答事例には、クリーニング業や自動車修理業は、そもそも産業分類でサービス業なので第5種とあります。「加工しているから第4種」ではなく、まず第3種の製造業等に当たることが前提です。ここは自己判断が危ないところです。
結論:一人親方は、3割特例で損をしません
整理すると、こうなります。
- 材料込みで請けている(第3種) → 簡易課税とまったく同じ
- 手間請け(第4種の可能性) → 3割特例のほうが少ない
どちらに転んでも、3割特例で損をしません。
⚠️ **逆に、簡易課税を選ぶべきなのは卸売業(90%)と小売業(80%)**です。ここは差がはっきり出ます。
⚠️ そしてもう1つ、例外があります。 国税庁が挙げているのは、多額の設備投資などで、仕入れの消費税額が売上の消費税額を上回る年です。この場合は一般課税で申告すれば還付が出ますが、3割特例では通常、還付は生じません。 大きな機械や車両を入れる年は、別の計算が要ります。
では、何が違うのか
納税額が同じなら、残るのは手続きの重さです。ここに大きな差があります。
| 3割特例 | 簡易課税 | |
|---|---|---|
| 届出 | 不要。申告書の所定欄に書くだけ | 必要。原則、適用を受ける課税期間の初日の前日まで |
| 継続の縛り | なし。年ごとに選べる | 原則2年間は継続適用 |
| 使える期間 | 令和9年分・令和10年分だけ | 期限なし |
| 対象 | 個人事業者のみ。基準期間の課税売上高1,000万円以下 | 基準期間の課税売上高5,000万円以下 |
| インボイスの保存 | 不要 | 不要 |
| 還付 | 通常、生じない | 生じない |
縛りの差が大きいと思います。
簡易課税は、一度選ぶと原則2年間は戻れません。 途中で大きな設備投資が決まっても、その年に一般課税へ移ることはできません。
3割特例は、年ごとに選べます。 その年の申告書に書くかどうかだけの話なので、設備投資をした年だけ一般課税で申告するという使い方ができます。
納税額が同じなら、身軽なほうを選べばいい——第3種の方については、そういう結論になります。
⚠️ 3割特例が使えない場合もあります
要件から外れると使えません。国税庁が挙げているのはこのあたりです。
- 法人である(これが一番大きい要件です)
- 基準期間(2年前)の課税売上高が1,000万円を超える
- 特定期間(前年1月〜6月)の課税売上高が1,000万円を超える(給与等の支払額の合計額で判定することも可能)
- インボイス発行事業者の登録を受けていない、またはインボイス制度と関係なく課税事業者になっている
- 調整対象固定資産や高額特定資産を取得して免税事業者に戻れない期間である
- 届出により課税期間を短縮している
- 相続により課税事業者となる課税期間である
⚠️ 「登録を機に、免税事業者から課税事業者になった個人事業者」のための制度です。もともと課税事業者だった方は対象外になります。
令和11年分から、どうするか
3割特例は令和10年分で終わります。 その先は、一般課税か簡易課税です。
ここで、令和8年度の税制改正で入った緩和が効きます。
簡易課税は本来、適用したい課税期間が始まる前日までに届出が必要です。令和11年分に簡易課税を使いたければ、令和10年12月31日までということになります。
ところが、3割特例の適用を受けた翌課税期間であれば、その申告期限まででよいことになりました。国税庁が挙げている例では、令和12年4月1日までです。
⚠️ 1年やってみてから決められるということです。令和11年を走ってみて、数字を見てから簡易課税にするか決められます。
これは知らないと損をする種類の緩和だと思いました。知らなければ、令和10年の年末に慌てて判断することになります。
まとめ
- 3割特例も簡易課税も、売上の消費税額に率をかけるだけ。 違うのは率
- 3割特例は業種を問わず70%控除。 簡易課税は業種ごと
- 第3種(建設業・製造業)は70%なので、納税額はまったく同じ
- 第4種60%・第5種50%・第6種40%は、3割特例のほうが少ない
- 卸売業90%・小売業80%は、簡易課税のほうが少ない
- ⚠️ 材料を元請が支給する手間請けは、第3種から外れて第4種になる可能性がある。 判定は取引ごと
- 違いは手続き。3割特例は届出不要で年ごとに選べ、簡易課税は届出が必要で原則2年継続
- ⚠️ 設備投資で還付が出る年は、3割特例だと還付が生じない
- 令和11年分の簡易課税は、令和12年4月1日まで届出を待てる
⚠️ 事業区分の判定は、自分で決めると危ないところです。 材料の支給関係、取引ごとの区分、産業分類での位置づけが絡みます。顧問税理士か所轄の税務署に、実際の請求内容を見せて確認してください。
私は法人なので3割特例の対象外ですし、顧問税理士もいるので使っていません。ただ、顧問税理士がいない個人事業主・一人親方の方だと、そもそも聞く相手がいないという話になります。
⚠️ 「うちは第3種か第4種か」は、実際の請求書や契約の中身を見せないと判定できません。 電話や窓口で片づく類の相談ではないと思います。そして届出の期限を逃すと、原則として1年待ちです。探すなら早いほうがいいとは思います。
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この記事について
本記事は執筆時点(2026年8月)に国税庁が公表している令和8年度税制改正の資料・タックスアンサーNo.6509・質疑応答事例にもとづいて書いています。筆者は税理士ではなく、法人であるため3割特例の対象外です。
簡易課税の事業区分は、原則として課税資産の譲渡等ごとに判定します。 同じ事業者でも取引によって区分が分かれることがあり、本記事の表はあくまで一般的な整理です。⚠️ 質疑応答事例は「照会に係る事実関係を前提とした一般的な回答」であり、具体的な取引に適用する場合には異なる課税関係が生ずることがあると国税庁自身が注記しています。
ご自身の事業区分の判定、3割特例と簡易課税の選択、届出の期限については、必ず顧問税理士または所轄の税務署にご確認ください。 本記事は一般的な情報提供であり、個別の税務判断を示すものではありません。