「建退共」と「中退共」。一字違いで、どちらも国の退職金共済です。運営しているのも、同じ独立行政法人勤労者退職金共済機構です。

中退共については以前、やめられない制度で、掛金は会社に戻らないという記事を書きました。今回は建退共のほうを、機構の公式サイトで調べてみました。

名前は似ていますが、考え方はかなり違いました。中退共は「会社が自分の従業員にかける」制度で、建退共は「現場で働く人が、会社をまたいで持ち運ぶ」制度です。

先に答えを書きます

建退共 中退共
入れる会社 建設業を営むすべての事業主(規模・許可の有無を問わない) 中小企業(建設業なら常用従業員300人以下または資本金3億円以下)
対象になる人 建設現場で働く労働者(職種・日給月給を問わない) 雇われている従業員(期間を定めて雇う人などは除外できる)
対象にならない人 事業主、役員報酬を受けている人、本社等の事務専用社員 役員(使用人兼務役員の一部を除く)
掛金 働いた日数×日額320円 月額5,000〜30,000円(16種類)
納め方 電子申請方式(退職金ポイント)または証紙貼付方式 口座振替
会社が変わったら 建退共に入っている会社どうしなら日数を通算 退職後3年以内に次の会社で中退共に入るなど、条件つきで通算
退職金が出る最低期間 12月(21日を1か月と数える) 1年(12か月)
国の助成 新規加入者の初回の共済手帳50日分 掛金月額の2分の1(上限5,000円)を加入4か月目から1年間
一人親方 任意組合を通じて加入できる 雇われている従業員が対象

同じ人を両方に入れることはできません。会社として両方の制度に入ることはできます。この点は後半で書きます。

建退共は「現場の日数」を数える制度です

中退共は、会社が従業員ごとに月額を決めて、毎月口座振替で払います。

建退共は、月額ではなく日数です。建退共の特設ページによると、掛金は1日320円で、令和3年(2021年)10月1日以降の加入者はこの額で計算されています。事業主が、労働者が現場で働いた日数に応じて掛金を納めます。

退職金は、掛金の合計が12月以上になり、建設業界で仕事をしなくなったときに、本人(または遺族)の請求で支払われます。この「12月」は暦の12か月ではなく、21日を1か月と換算した日数です。つまり252日分の掛金が必要です。

同じ特設ページに、日額320円で計算した退職金の目安が載っています。

掛金納付月数 退職金額
1年(12月) 24,192円
2年(24月) 161,280円
5年(60月) 414,087円
10年(120月) 893,559円
20年(240月) 1,933,479円

12月だと、払った掛金(約8万円)の3割ほどです。退職金の説明ページにも、12月以上24月未満は「掛金納付額3~5割程度」と書かれています。2年でちょうど払った分と同じ額になり、そこから先で上乗せされていく形です。短期間でやめると、掛金より少なくなるのは中退共と同じでした。

会社が変わっても、手帳1冊で通算されます

ここが建退共のいちばんの特徴です。

建退共では、労働者1人に1冊、共済手帳が交付されます。制度の説明ページには、こう書かれています。

労働者が現場を移動し、事業主が変わっても、制度に加入している事業主であれば、掛金を納付してもらうことができ、建設業で働いた日数は全て通算され、退職金が支払われる仕組みとなっております。

現場ごと、会社ごとに働き先が変わるのが前提の制度です。A社で200日、B社で300日働けば、どちらも建退共に入っている会社なら同じ手帳に積み上がります。

中退共にも通算の仕組みはありますが、中退共のQ&Aでは、前の会社を退職してから3年以内に次の会社で被共済者になること、退職金を請求していないことなどが条件です。「1社に長く勤める人」が基本の形で、転職したときに引き継げる、という順番です。建退共は最初から「渡り歩く人」を前提にしている、というのが調べて分かった違いでした。

掛金の納め方は2つあります

建退共の電子申請の案内によると、2020年10月1日に改正中小企業退職金共済法が施行され、それまでの「証紙貼付方式」に「電子申請方式」が加わりました。

  • 証紙貼付方式:会社が金融機関で共済証紙を買い、賃金を払うたび(少なくとも月1回)、働いた日数分を共済手帳に貼って消印する。証紙は1日券320円と10日券3,200円
  • 電子申請方式:会社が退職金ポイントを先に買っておき、月に1回、就労日数を専用サイトで報告すると、日数に応じて掛金に充てられる(電子ポイント方式の説明)

どちらの方式でも、掛金は全額事業主の負担です。特設ページにも「自己負担する必要はありません」とあります。掛金は法人なら損金、個人事業主なら必要経費になります(建退共・制度の特長)。

元請・下請の会社が知っておくこと

公共工事を受注した元請には、決まった手順があります。建退共の「元請としてやること」によると、

  • 下請の労働者の分も含めて、退職金ポイントまたは証紙を買う
  • 電子申請方式なら、専用サイトから出した掛金収納書を工事契約から40日以内に発注者へ出す
  • 証紙貼付方式なら、金融機関が出した掛金収納書を台紙に貼り、工事契約から1か月以内に出す
  • 工事現場の見やすい場所に現場標識を掲示する

元請は「当該工事に従事する全ての被共済者に対し、就労実績に応じて適正に掛金が充当されるように」することになっています。下請の職人の掛金まで、元請が責任を持って用意する仕組みです。

制度の特長には、建退共に加入して適切に履行している事業主は、公共工事入札の経営事項審査で加点評価されることも挙がっています。下請の会社にとっては、自社が加入していないと、元請が用意した掛金を自社の職人に充ててもらう受け皿がない、ということになります。

一人親方・職人の側から見ると

一人親方も、建退共に入る道があります。建退共の一人親方のページによると、一人親方が集まって任意組合をつくり、機構がその規約を認定すると、任意組合を事業主、個々の親方をそこに雇われる労働者とみなします。

掛金の出どころは、働き方で変わります。

  • 親方として働いた日:任意組合から掛金を納めてもらう。この分の掛金は自分で負担する
  • 他の会社に雇われて働いた日:その会社(事業主)から掛金を納めてもらう

なお、法人の代表者や役員報酬を受けている人は、任意組合からは加入できません。労働者個人が直接、加入の手続きをすることもできません。

自分の掛金がどれだけ積み上がっているかは、掛金納付状況の確認ページに方法がまとまっています。

  • 共済手帳の表紙の納付実績に、手帳に貼られた証紙の日数を足す
  • 電子申請の会社なら、会社に届く「掛金充当書」の累計を見せてもらう
  • 加入時、12月に達したとき、60月に達したときに届く通知はがきを見る
  • 建設キャリアアップシステムに登録していれば、スマホアプリ「建キャリ」で見る

手帳がどこにあるか分からない人は、まずそこからだと思います。12月に届かないと退職金は出ませんし、請求のときには共済手帳の提出が必要です(本人の請求手続き)。働いている会社が建退共に入っているかは、建退共のホームページで加入事業所を調べられる、と特設ページに書かれています。

建退共と中退共、両方には入れるのか

人と会社で、答えが分かれます。

同じ人を両方に入れることはできません。建退共の加入条件には、中退共・清退共・林退共の被共済者は加入できないとあり、中退共の加入条件にも、特定業種退職金共済制度(建退共など)に加入している人は加入できないとあります。

一方で、会社としては両方に入れます。中退共の同じページには、建退共などの特定業種退職金共済制度について「企業として両制度に加入はできますが」「同一の従業員が両制度に加入することはできません」と書かれています。建退共は本社等の事務専用社員を対象にしていないので、建設業の会社なら、現場の人は建退共、事務の人は中退共、と分けて入る形になります。会社として両方に入るときは、同じ人が二重にならないように名簿を分けておく、ということになります。

中退共から建退共に移るときは、条件を満たせば、それまでの掛金を引き継げます(他制度との引継ぎ)。別の会社に移る場合は、前の会社を退職して3年以内に建退共の被共済者になり、退職金を請求していないことなどが条件です。退職金を先に受け取ってしまうと引き継げないので、順番に気をつけるところです。

まとめ

  • 建退共も中退共も国の退職金共済。運営は同じ勤労者退職金共済機構
  • 中退共は会社が従業員に月額でかける制度、建退共は現場で働いた日数に日額320円をかける制度
  • 建退共は共済手帳1冊で、建退共に入っている会社どうしなら日数がすべて通算される
  • 退職金が出るのは12月(21日を1か月)以上から。短期だと掛金を下回る
  • 公共工事の元請は、下請の分も含めて掛金を用意し、掛金収納書を発注者に出す
  • 一人親方は任意組合を通じて入れる。親方として働いた日の掛金は自己負担
  • 同じ人を両方に入れることはできない。会社として現場は建退共、事務は中退共と分けることはできる
  • 職人の側は、手帳の場所と納付日数をまず確認する

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この記事について

本記事は執筆時点(2026年10月)に、独立行政法人勤労者退職金共済機構の建設業退職金共済事業本部(建退共)と中小企業退職金共済事業本部(中退共)の公式サイトで公表されている内容を調べた記録です。主に参照したページは、建退共・加入条件、建退共・特設ページ、建退共・制度の特長、建退共・元請としてやること、建退共・一人親方について、建退共・掛金納付状況の確認、建退共・他制度との引継ぎ、中退共・加入の条件、中退共・制度の特色、中退共・掛金、中退共・通算のQ&Aです。

筆者は社会保険労務士・税理士ではありません。掛金日額・退職金額・助成の内容・加入条件は改正されることがあります。退職金の額は制度の見直しで変わることがあり、上の表は日額320円で計算した目安です。任意組合の利用、他制度からの引継ぎ、会社として両制度に入る場合の扱いなどは、個別の確認が必要です。

加入や手続きを検討する際は、必ず勤労者退職金共済機構や社会保険労務士などの専門家にご確認ください。 本記事は一般的な情報提供であり、特定の制度への加入を勧めるものではありません。