月110ドルで社内ツールを作っている話を書きました。あの記事は費用の話でした。「高いだろう」で検討をやめていた、という話です。

今回はその続きで、中身の話です。

何を作ったか。何がまだ回っていないか。そして、AIに任せなかったものは何か。

先に結論を書きます。任せられたのは、全部「記録」の仕事でした。

作ったものを並べたら、全部「記録」だった

1年ほどで、社内向けに6つ作りました。

作ったもの 何をするか
現場写真のアプリ 撮った写真に、日付・工事名・工種を焼き込む
作業時間の集計 案件ごとに、誰が何時間かかったかを積み上げる
暑さ対策のページ 暑さ指数の記録と、具合が悪くなったときの手順・連絡先
化学物質の作業記録簿 何を、誰が、いつ、どれだけ扱ったかを残す
材料の切り分け計算(2種類) 決まった長さ・大きさの材料から、端材を少なく取る組み合わせを出す

並べてから気づきました。上の4つは、全部「入れる→貯める→あとで出す」の形をしています。

判断が入っていません。

⚠️ だから自動化できたのだと思います。 逆に言えば、判断が入る仕事は、この方法では減りませんでした。 それは後で書きます。

なぜ「記録」がこんなに増えているのか

作りながら思ったのは、仕事が増えたのではなく、記録の仕事が増えたということでした。

これは気のせいではなく、法令がそうなっています。

暑さ対策は、2025年6月から義務になりました

改正された労働安全衛生規則(第612条の2)2025年6月1日に施行され、事業者に3つのことが義務づけられました。

  • 報告体制の整備(具合が悪い人・見つけた人が、誰にどう伝えるか)
  • 手順の作成(作業からの離脱、体を冷やす、必要なら医師に診せる)
  • 関係者への周知

対象になるのは、暑さ指数(WBGT)28度以上、または気温31度以上の場所で、連続1時間以上、または1日4時間を超えて行われる作業です。

⚠️ 罰則があります。 労働安全衛生法第22条違反として、6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(同法第119条第1号)の対象になり得ます。

背景の数字も出ています。厚生労働省の発表によると、令和6年の職場での熱中症による死傷者は1,257人(前年比151人・約14%増)、死亡31人。そして全体の約4割が建設業と製造業で起きています。死亡者は建設業10人・製造業5人でした。

化学物質の記録は、30年保存です

もうひとつが化学物質です。労働安全衛生規則第577条の2で、リスクアセスメント対象物のばく露の状況などを1年ごとに記録し、3年間保存することになっています。

⚠️ そして、がん原性物質にあたるものは30年間です。

30年です。 会社の寿命に近い長さで、紙のバインダーで持つ前提の期間ではありません。

「義務が増えた」というより、「30年先まで出せる形で残せ」と言われている、というのが実感でした。だから記録のほうから手をつけました。

作るのは速くなりましたが、配るのは速くなりませんでした

ここは正直に書きます。

6つ作りましたが、全部が現場で回っているわけではありません。

止まっているものを見ると、理由が全部同じでした。

止まっている理由
誰がアクセスできるようにするかを決めて、設定していない
実際のスマホで動かして確かめていない
連絡先などの「実データ」をまだ入れていない

⚠️ どれも作る話ではなく、配る話です。

作る時間は、体感で10分の1くらいになりました。 以前なら見積もりを取るところから始まって、仕様を決めて、何か月か待つ話でした。それが数日で形になります。

でも、配る時間は1ミリも変わっていません。 誰に使わせるか、どう説明するか、実機で確かめる。ここは自分か社内の誰かが手を動かすしかない。

AIで速くなるのは前半だけでした。ここを分かっていないと、「作ったのに使われない」で終わります。私は今そこにいます。

AIに任せなかったもの

任せられなかったものも、共通点がはっきりしていました。判断が入るものです。

⚠️ これらは「調べる」ことはできますが、「決める」ことはできません。 決めた結果に責任を負うのは会社だからです。

私はこう分けています。

AIに任せるか
記録(入れる・貯める・出す) 任せる
調べ物(条文や基準を探す) 下調べだけ任せて、必ず出典を自分で開く
判断(どう処理するか決める) 任せない。税理士に聞くか、自分で決める

真ん中が一番危ないところです。もっともらしい答えが返ってくるので、出典を開かないと間違いに気づけません。 このブログで数字を書くときに必ず公式ページのリンクを置いているのは、そのためです。

⚠️ 私が独学でできたのは、条件が揃っていたからです

ここが一番書いておきたいところです。

私は誰にも習っていません。 ですが、それは私に能力があったからではなく、条件が揃っていたからだと思っています。

揃っていた条件は4つでした。

1. 試すのに、誰の承認も要らなかった

月1万数千円を試すのに、稟議も相談も要りませんでした。これが一番大きいと思います。従業員の立場で「よく分からないAIに月1万数千円出したい」を通すのは、それ自体がひとつの仕事です。

2. 失敗しても困らない業務から始めた

最初に作ったのは、なくても困らないが、あれば楽になるものでした。止まっても誰も困りません。給与計算や請求から始めていたら、途中でやめていたと思います。

3. 調べ物が苦にならない

エラーが出たときに、何が起きているか自分で調べにいく必要があります。ここが苦痛な人には、独学はきついはずです。

4. 時間があった、というより、時間を取った

夜と休みの日です。「業務時間内でやれ」と言われていたら、たぶん進んでいません。

⚠️ このどれかが欠けると、独学はかなりしんどいと思います。とくに1つ目です。

誰もが独学でやれるわけではない、というのが正直なところです。

教わるという選択肢について

建設会社・工務店向けに、AIで日常業務を自動化する無料のオンラインセミナーがあるのを知りました。1対1・60分で、積算・見積作成、安全書類、施工管理の報告書・日報、原価管理といった建設業の実務に踏み込んだ内容とされています。プログラミングの知識は不要で、代表・責任者の方の参加を推奨(実務担当者だけだと内容が合わない可能性がある)と案内されています。

正直に、3つ書いておきます。

⚠️ 私は受けていません。 独学でやったので、中身の良し悪しは分かりません。

⚠️ 1対1・60分です。 無料セミナーが1対1で60分ということは、後で有料のサービスの案内が来る前提で行くのが自然だと思います。有料版の金額は、案内ページに書かれていません。 そのつもりで行くなら問題ないですが、そうでないと「思っていたのと違う」になります。

⚠️ 録画の配布はなく、当日メモを取る形とされています。日程変更は前日までなら振替可能とのことです。

そのうえで、上に書いた4つの条件のどれかが欠けている方——とくに**「何から手をつければいいか分からない」**という段階なら、60分で自社の業務を一緒に整理してもらうのは、独学で1か月迷うより早いと思います。自社の書式や業務を前提に相談できる(施主名や案件情報を見せる必要はない)と明記されているのが、汎用のセミナーとの違いです。

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これから試す人へ

順番だけ、はっきり書いておきます。

  1. 記録の仕事から選ぶ(入れる→貯める→出す、の形をしているもの)
  2. 止まっても誰も困らないものから始める
  3. 作ったら、配るところまでを予定に入れる(ここが本番です)
  4. 判断が入る仕事は、最後まで自分か専門家が持つ

3番を軽く見ていたのが、私の失敗です。

まとめ

  • 任せられたのは全部「記録」の仕事。入れる→貯める→出すの形で、判断が入らないもの
  • 記録の仕事は法令の側から増えている。 暑さ対策は2025年6月1日から義務(違反すると6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象になり得る)、化学物質の記録は最長30年保存
  • 令和6年の職場の熱中症は死傷1,257人・死亡31人約4割が建設業と製造業
  • ⚠️ 作る時間は10分の1になったが、配る時間は変わらない。 止まるのはここ
  • 判断は任せない。 調べ物は下調べだけ任せて、必ず出典を自分で開く
  • ⚠️ 独学でやれたのは、決裁権があって、失敗しても困らない業務から始められたから。 条件が違えば、教わるほうが早い

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この記事について

本記事は執筆時点(2026年8月)の法令・公表資料と、筆者自身が社内で試した記録にもとづいて書いています。筆者は社会保険労務士でもエンジニアでもありません。

熱中症対策の義務や化学物質の記録の要否・保存期間は、作業の内容や取り扱う物質によって変わります。 自社が対象になるかどうかは、必ず厚生労働省の資料や所轄の労働基準監督署、社会保険労務士にご確認ください。

セミナーの内容・条件は主催者が定めるものです。 筆者は参加していないため、内容について保証するものではありません。申し込み前に、案内ページと当日の進め方を必ずご自身でご確認ください。